なぜ「出生から死亡まで」必要なのか
銀行や法務局が求めているのは、相続人が誰なのかを客観的に確定することです。現在の戸籍だけを見ても、過去の婚姻で生まれた子や、認知した子、養子縁組の記録が載っていないことがあります。これらの人も相続人になるため、出生までさかのぼって空白のない戸籍を並べる必要があります。
逆に言えば、必要なのは「相続人を確定できる範囲」です。相続放棄で兄弟姉妹が申述する場合のように先順位者の不存在まで示す必要がある手続きもあれば、遺言があって受遺者が単独で動ける手続きのように範囲が狭くなる場合もあります。まず提出先に、何を証明するためにどの範囲が必要かを確認するのが近道です。
戸籍・除籍・改製原戸籍の違いを見分ける
窓口で請求するとき、この3つの区別がついていないと必要なものが手に入りません。いずれも「その戸籍に載っている全員分」を証明する謄本(全部事項証明書)を請求します。相続では抄本(個人事項証明書)では足りないことがほとんどです。
改製原戸籍は、法令改正で戸籍の様式が変わったときに作り直される前の古い戸籍です。昭和32年法務省令による改製では戸主中心の戸籍から夫婦と未婚の子を単位とする戸籍へ、平成6年法務省令による改製では紙の戸籍からコンピュータ化された戸籍へ書き換えられました。改製のときに書き写されなかった記載があるため、改製原戸籍を見ないと分からない事実があります。
相続で請求する3種類の戸籍
| 種類 | 内容 | 手数料 |
|---|---|---|
| 戸籍全部事項証明書(戸籍謄本) | 現在も有効な戸籍。在籍している人がいる | 1通450円 |
| 除籍全部事項証明書(除籍謄本) | 死亡・婚姻・転籍などで全員が抜けて閉じられた戸籍 | 1通750円 |
| 改製原戸籍謄本 | 法令改正による書き換え前の、古い様式の戸籍 | 1通750円 |
手数料は戸籍法関係の法令で全国共通です。これに対し、戸籍の附票(1通300円程度)や住民票除票の手数料は自治体の条例で決まるため、市区町村によって異なります。
死亡時の戸籍から、過去へさかのぼる手順
集め方には決まった順序があります。最新のものから1通ずつ過去へたどるのが確実で、途中で本籍地が変わっていれば、その市区町村へ請求先を移していきます。
各戸籍には「いつ、どの戸籍から入って、いつ抜けたか」が書かれています。戸籍の冒頭にある編製事由(婚姻、転籍、改製など)と従前戸籍の表示が、一つ前の戸籍をたどる手掛かりです。生年月日の記載までさかのぼれていれば、そこで打ち止めになります。
- 死亡の記載がある戸籍(除籍謄本になっていることが多い)を取る
- その戸籍がいつ、どの戸籍から編製されたかを冒頭で確認する
- 従前の本籍地の市区町村へ、一つ前の戸籍を請求する
- 本籍地が変わっていれば請求先も変える。同じ市区町村なら「相続に必要な分をすべて」と伝えるとまとめて出してもらえる
- 出生の記載がある戸籍にたどり着くまで繰り返す
窓口や郵送で請求する際は「相続手続きに使うので、この方の出生から死亡までつながるものをすべてください」と用途を伝えるのが確実です。担当者が戸籍をたどって必要な通数を判断してくれます。
広域交付が使えるかどうかで、手間が大きく変わる
2024年3月1日から、本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍謄本等を請求できる広域交付制度が始まりました。本籍地が全国に散らばっていても、最寄りの1か所の窓口でまとめて請求できるため、使える場合の効果は大きいです。
ただし請求できるのは、戸籍の本人、配偶者、直系尊属(父母・祖父母)、直系卑属(子・孫)に限られます。兄弟姉妹や甥姪、そして代理人は対象外です。また戸籍の附票は広域交付では取れず、本籍地への請求が必要です。窓口へ本人が出向く必要があり、郵送やオンラインでは請求できません。
広域交付で取れるもの・取れないもの
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 請求できる人 | 戸籍の本人、配偶者、父母・祖父母、子・孫 |
| 請求できない人 | 兄弟姉妹、甥姪、代理人(士業を含む) |
| 対象になる書類 | 戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本 |
| 対象外の書類 | 戸籍抄本、戸籍の附票、身分証明書 |
| 請求方法 | 本人が市区町村の窓口へ出向く。郵送・オンラインは不可 |
| 持ち物 | マイナンバーカード、運転免許証など顔写真付きの本人確認書類 |
広域交付を使えない場合は、本籍地の市区町村へ郵送請求します。定額小為替、返信用封筒、本人確認書類の写しが必要で、往復で2週間前後かかることがあります。相続放棄の3か月など期限のある手続きでは、日数から逆算して動いてください。
手続きごとに必要な範囲は違う
「出生から死亡まで」がどの手続きでも必要とは限りません。提出先によって求める範囲が異なるため、最も範囲の広い手続きに合わせて一式そろえておき、それを使い回すのが結果的にいちばん早くなります。
主な手続きと、必要になる戸籍の範囲の目安
| 手続き | 戸籍の範囲の目安 |
|---|---|
| 相続登記(不動産の名義変更) | 被相続人の出生から死亡までのすべて/相続人全員の現在戸籍 |
| 預貯金の相続手続き | 被相続人の出生から死亡までのすべて/相続人全員の現在戸籍 |
| 相続税の申告 | 被相続人の出生から死亡までのすべて/相続人全員の現在戸籍 |
| 相続放棄(配偶者・子) | 被相続人の死亡の記載があるもの/申述人の戸籍 |
| 相続放棄(兄弟姉妹・甥姪) | 被相続人の出生から死亡までのすべて/直系尊属の死亡の記載があるもの ほか |
| 遺族年金の請求 | 死亡の事実と続柄が分かるもの(詳細は年金事務所へ確認) |
これは一般的な目安です。遺言がある場合や、提出先の運用によって必要書類は変わります。最終的には各提出先の案内に従ってください。
法定相続情報一覧図で、戸籍の束を1枚にする
銀行、証券会社、法務局、税務署と手続きが続くと、同じ戸籍の束を何度も出し直すことになります。法定相続情報証明制度を使うと、この束を1枚の証明書に置き換えられます。
集めた戸除籍謄本等と、相続関係を書いた一覧図を登記所へ提出すると、登記官の確認を経て、認証文の付いた一覧図の写しが交付されます。交付は無料で、必要な通数を何枚でも受け取れるため、複数の手続きを同時並行で進められるようになります。
申出先は、被相続人の本籍地、被相続人の最後の住所地、申出人の住所地、被相続人名義の不動産の所在地のいずれかを管轄する登記所から選べます。一覧図は申出日の翌年から5年間保存され、その間は再交付を受けられます。
- 申出に必要: 被相続人の出生から死亡までの戸除籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、被相続人の住民票除票、申出人の本人確認書類
- 費用: 無料(戸籍等の取得費用は別途かかる)
- 交付されるもの: 認証文付きの法定相続情報一覧図の写し(必要な通数)
- 保存期間: 申出日の翌年から5年間。この間は再交付が可能
一覧図が証明するのは法定相続人が誰かということだけです。誰がどの財産を取得したかは証明されないため、遺産分割協議書や印鑑証明書は別途必要になります。
戸籍がつながらない、廃棄されていたとき
古い戸籍を請求すると、まれに「廃棄済み」と言われることがあります。除籍簿等の保存期間は現在150年ですが、平成22年の戸籍法施行規則改正より前は80年で、その時点で廃棄されてしまった戸籍は今から取ることができません。
この場合、市区町村は謄本の代わりに廃棄証明書(告知書)を発行します。戦災や災害で焼失している場合も同様に、焼失証明書などが発行されます。提出先には、この証明書とあわせて事情を説明することになります。相続登記など提出先によっては、相続人全員の上申書などの追加書類を求められることがあるため、早めに提出先へ相談してください。
請求先が分からなくなった場合は、被相続人の戸籍の附票を取ると住所の移転履歴が分かり、手掛かりになります。それでもたどれないときは、司法書士や行政書士など戸籍収集を扱う専門家に依頼する方法もあります。
よくある質問
Q相続の戸籍謄本は何通くらい必要になりますか?開く閉じる
被相続人の出生から死亡までで、転籍や婚姻、法改正の回数によって3通から10通程度になることが多いです。これに相続人全員の現在戸籍が加わります。通数は個別の事情によって変わるため、請求時に市区町村の担当者へ確認してください。
Q戸籍謄本の手数料はいくらですか?開く閉じる
戸籍謄本が1通450円、除籍謄本と改製原戸籍謄本が1通750円で、これは全国共通です。戸籍の附票は1通300円程度ですが、自治体の条例で決まるため金額が異なる場合があります。
Q戸籍は近くの市区町村でまとめて取れますか?開く閉じる
2024年3月1日から始まった広域交付制度を使えば、本籍地以外の窓口でまとめて請求できます。ただし請求できるのは本人、配偶者、直系尊属、直系卑属に限られ、兄弟姉妹や代理人は対象外です。窓口へ本人が出向く必要があります。
Q戸籍抄本ではだめですか?開く閉じる
相続手続きでは、戸籍に載っている全員分を証明する謄本(全部事項証明書)が求められるのが一般的です。抄本(個人事項証明書)は特定の1人分だけの証明のため、相続人の確定には足りません。
Q改製原戸籍はなぜ必要なのですか?開く閉じる
法令改正で戸籍を作り直すとき、すでに婚姻や死亡で抜けた人の記載は新しい戸籍に書き写されません。そのため改製原戸籍を見ないと、過去の婚姻で生まれた子や養子縁組の記録が分からないことがあります。
Q法定相続情報一覧図があれば遺産分割協議書は不要ですか?開く閉じる
不要にはなりません。一覧図が証明するのは法定相続人が誰かということだけで、誰がどの財産を取得したかは証明しません。遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書は別途必要です。
Q法定相続情報一覧図の交付にお金はかかりますか?開く閉じる
かかりません。申出も交付も無料で、必要な通数を何枚でも受け取れます。ただし、申出のために集める戸籍等の取得費用は別途必要です。
Q古い戸籍が廃棄されていて取れないと言われました。開く閉じる
市区町村が廃棄証明書(告知書)を発行してくれます。提出先によっては相続人全員の上申書など追加書類を求められることがあるため、証明書を受け取ったうえで提出先へ早めに相談してください。