「ワンストップ」と呼ばれるものは3種類ある
同じ言葉でも指しているものが違うため、比較する前にどれの話かを切り分けます。
1つめは、士業事務所が提携先を持ち、窓口を一本化するタイプです。司法書士事務所が税理士や土地家屋調査士と組む形が多く、依頼者は1か所とやり取りするだけで済みます。2つめは、信託銀行などが提供する遺産整理業務です。財産の調査から名義変更までを包括的に引き受けますが、登記や税務申告は結局それぞれの士業が行うため、その費用は別途かかることが一般的です。3つめは、市区町村が設置しているおくやみ窓口で、これは死亡届のあとに続く行政手続きをまとめて案内してくれるものです。相続財産の名義変更まで面倒を見てくれるわけではありません。
3種類のワンストップの守備範囲
| 種類 | 主な守備範囲 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 士業事務所の提携型 | 戸籍収集、遺産分割協議書、相続登記、相続税申告まで | 依頼する業務ごとの報酬の合計 |
| 信託銀行の遺産整理業務 | 財産調査、金融機関の名義変更、全体の進行管理 | 最低報酬に加えて財産額に応じた報酬。登記・税務は別途 |
| 自治体のおくやみ窓口 | 死亡届のあとの市区町村の行政手続きの案内 | 無料 |
費用は事務所や金融機関ごとに大きく異なります。ここに書いたのは構造の違いであって、金額の目安ではありません。必ず複数から見積もりを取って比較してください。
相続手続きの全体像と、担当できる専門家
ワンストップが必要かどうかを判断するには、そもそも何をしなければならないのかを知る必要があります。相続で発生する主な手続きと、期限、担当できる専門家を並べると次のようになります。
見ての通り、最初の1か月に集中しているのは市区町村への届出で、これは専門家に頼まなくても進められるものがほとんどです。専門家が必要になるのは、3か月の相続放棄、4か月の準確定申告、10か月の相続税申告、そして相続登記からです。
主な相続手続きと期限、担当できる専門家
| 手続き | 期限の目安 | 担当できる専門家 |
|---|---|---|
| 死亡届の提出 | 死亡を知った日から7日以内 | 親族(葬儀社が代行することが多い) |
| 年金の受給停止 | 厚生年金10日以内/国民年金14日以内 | 親族、社会保険労務士 |
| 健康保険・介護保険の資格喪失届 | 14日以内 | 親族 |
| 相続放棄・限定承認 | 3か月以内 | 弁護士、司法書士 |
| 準確定申告 | 4か月以内 | 税理士 |
| 遺産分割協議 | 期限はないが相続税の特例には期限あり | 弁護士、司法書士、行政書士 |
| 相続税の申告・納付 | 10か月以内 | 税理士 |
| 相続登記(不動産の名義変更) | 取得を知った日から3年以内 | 司法書士、弁護士 |
| 預貯金・証券口座の名義変更 | 期限なし | 各金融機関の手続きに従う |
| 自動車の名義変更 | 期限の定めは運輸支局へ確認 | 行政書士 |
年金受給者のマイナンバーが日本年金機構に収録されている場合、死亡届の提出は原則不要とされています。未支給年金の請求は別途必要です。
士業ごとに、できることが法律で決まっている
ワンストップサービスが存在する理由は、相続の手続きが複数の資格にまたがっていて、1つの資格ではすべてを引き受けられないからです。それぞれの資格でしかできない業務は法律で定められています。
実務でよく問題になるのは、相続人の間で意見が割れているケースです。他の相続人との交渉を報酬を得て代理できるのは弁護士だけで、他の資格の専門家は書類作成の支援にとどまります。もめている、あるいはもめそうな段階なら、最初から弁護士に相談したほうが結果的に早く済みます。
相続でよく依頼する業務と、担当できる資格
| 業務 | 担当できる資格 |
|---|---|
| 相続人間の交渉・調停・訴訟の代理 | 弁護士 |
| 相続登記の申請の代理 | 司法書士、弁護士 |
| 相続税申告書の作成・税務代理 | 税理士 |
| 自動車の移転登録の代理 | 行政書士 |
| 戸籍の収集、相続人・相続財産の調査 | 弁護士、司法書士、行政書士 |
| 遺産分割協議書の作成 | 弁護士、司法書士、行政書士 |
各資格の業務範囲は法令で定められていますが、事務所ごとに実際の対応範囲や得意分野は異なります。依頼の前に、どこからどこまでを引き受けてもらえるかを書面で確認してください。
状況から相談先を決める
「相続に強い専門家」を探すより、自分の相続で何が論点になるかを先に決めたほうが、相談先はすぐ絞れます。判断の軸は3つだけです。もめているか、不動産があるか、相続税がかかりそうか。
- もめている、連絡の取れない相続人がいる → 弁護士
- 不動産があり、相続税はかからなそう → 司法書士
- 相続税がかかりそう(基礎控除を超えそう)→ 税理士。不動産もあれば司法書士と連携している事務所
- 不動産も相続税もなく、預貯金と自動車だけ → 自分で進められることが多い。書類作成を頼むなら行政書士
- 何から手をつければいいか分からない → 自治体のおくやみ窓口や、無料相談会でまず全体像を整理する
基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。不動産や生命保険を含めた財産の総額がこれを超えそうなら、税理士への相談を早めに検討してください。
費用は「合計いくらか」で比較する
ワンストップサービスを検討するときに最も間違えやすいのが、提示された金額だけを見て比較してしまうことです。信託銀行の遺産整理業務は、財産額に応じた報酬に最低報酬額が設定されているのが一般的ですが、この金額には相続登記の登録免許税や司法書士報酬、相続税申告の税理士報酬が含まれていないことがあります。
比較するときは、次の項目がその見積もりに含まれているかを一つずつ確認してください。含まれていない項目があるなら、その分の実費と報酬を足したうえで並べます。
- 戸籍の収集と相続人の確定
- 相続財産の調査と財産目録の作成
- 遺産分割協議書の作成
- 不動産の相続登記(登録免許税と司法書士報酬)
- 相続税の申告(税理士報酬)
- 預貯金・証券口座の解約や名義変更
- 不動産の売却が必要な場合の仲介手数料
ワンストップが向く場合と、向かない場合
すべての相続にワンストップサービスが必要なわけではありません。相続人が少なく、財産も預貯金と実家だけ、という場合は、司法書士に相続登記だけを頼み、あとは自分で進めるほうが費用を抑えられます。
逆に、相続人が多い、疎遠な相続人がいる、財産が全国に分散している、事業用資産がある、といったケースでは、進行管理そのものに価値があります。誰がいつ何を出すかを取りまとめる負担は、想像より大きいためです。
- 向く: 相続人が多い、遠方に住んでいる、財産の種類が多い、平日に動けない
- 向く: 不動産と相続税の両方があり、複数の専門家が必要になる
- 向かない: 相続人が1人か2人で、財産が預貯金と自宅だけ
- 向かない: 相続人の間で争いがある(この場合は弁護士へ直接)
相続人の間に争いがある場合、中立の立場で全員から依頼を受けることはできません。ワンストップサービスの多くは「相続人全員の合意があること」を前提にしているため、まず弁護士に相談してください。
自分で進められる範囲を知っておく
専門家に頼む前に、自分でできることを済ませておくと費用を抑えられます。市区町村への届出、年金や健康保険の手続き、金融機関への死亡連絡と残高証明書の取り寄せは、専門知識がなくても進められます。
戸籍の収集も、時間さえかければ自分でできます。集めた戸籍で法定相続情報一覧図を作っておくと、そのあとの銀行や証券会社の手続きが一気に楽になります。逆に、相続登記の申請、相続税の申告、他の相続人との交渉は、間違えたときの影響が大きいので専門家に任せる判断が合理的です。
よくある質問
Q相続のワンストップサービスとは何ですか?開く閉じる
複数の窓口に分かれている相続手続きを、1つの窓口でまとめて進められるようにするサービスです。士業事務所が提携先を持つタイプ、信託銀行の遺産整理業務、自治体のおくやみ窓口の3種類があり、守備範囲と費用が大きく異なります。
Q相続の相談は誰にするのが正解ですか?開く閉じる
もめているなら弁護士、不動産があるなら司法書士、相続税がかかりそうなら税理士が入口になります。判断の軸は、争いの有無、不動産の有無、基礎控除を超えるかどうかの3つです。
Q行政書士に相続登記を頼めますか?開く閉じる
頼めません。登記申請の代理ができるのは司法書士と弁護士です。行政書士には戸籍の収集、遺産分割協議書の作成、自動車の名義変更などを依頼できます。
Q信託銀行の遺産整理業務は割高ですか?開く閉じる
最低報酬額が設定されているため、財産が少ない場合は割高になりやすい傾向があります。また、相続登記の登録免許税や司法書士報酬、相続税申告の税理士報酬が別途になることが多いため、合計額で比較してください。
Q自治体のおくやみ窓口では相続手続きもできますか?開く閉じる
できません。おくやみ窓口が扱うのは、死亡届のあとに市区町村で必要になる行政手続きの案内です。不動産や預貯金の名義変更、相続税の申告は対象外です。設置状況は自治体によって異なります。
Q専門家に頼まず、自分だけで相続手続きを終えられますか?開く閉じる
相続人が少なく、争いがなく、財産も預貯金と自宅だけであれば、自分で進めている方は多くいます。相続登記も自分で申請できます。ただし相続税の申告が必要な場合や、相続人の間で意見が割れている場合は専門家に相談してください。
Q費用を抑えるにはどうすればよいですか?開く閉じる
市区町村への届出、金融機関への連絡と残高証明書の取り寄せ、戸籍の収集は自分で進められます。集めた戸籍で法定相続情報一覧図を作っておくと、そのあとの手続きの手間も減ります。
Q相続人の間でもめている場合もワンストップサービスを使えますか?開く閉じる
多くのサービスは相続人全員の合意を前提にしているため、争いがある場合は利用できないことがあります。他の相続人との交渉を報酬を得て代理できるのは弁護士だけなので、まず弁護士に相談してください。