預貯金の相続と、どこが違うのか
銀行口座は死亡を伝えると凍結され、引き出しができなくなります。証券口座も死亡の連絡を受けると取引が停止されますが、決定的に違うのは「現金でそのまま受け取れない」点です。株式や投資信託は、原則として現物のまま相続人名義の口座へ移す(移管する)ことになります。
つまり、相続人がその証券会社に自分名義の口座を持っていなければ、まず口座を開設しないと手続きが完了しません。ここを知らずに進めて、書類をそろえてから口座開設で数週間止まる、というのがよくある足止めのパターンです。相続すると決めた段階で、口座の有無を先に確認してください。
なお、被相続人が亡くなった日以降に受け取る配当金や分配金は相続人の所得になります。亡くなった日までに支払期が来ていて未受領の配当金は、相続財産として扱われます。
手続きの流れは5ステップ
証券会社によって書式や呼び名は違いますが、流れはおおむね共通しています。書類提出から移管完了までは2週間から1か月程度かかるのが一般的です。
- 1. 証券会社の相続専用窓口へ連絡し、死亡日時点の残高証明書を取り寄せる
- 2. 遺言書の内容、または遺産分割協議で、誰がどの銘柄を承継するかを決める
- 3. 承継する相続人名義の口座を用意する(なければ新規開設する)
- 4. 証券会社所定の相続手続書類と、戸籍・印鑑証明書などを提出する
- 5. 移管完了後、そのまま保有するか売却するかを判断する
残高証明書は相続税の申告や遺産分割の前提資料になるため、手続きの最初に取り寄せておくと後の工程が進めやすくなります。死亡日時点の評価額と取得単価もあわせて確認してください。
必要書類の一覧
必要書類は証券会社ごとに異なりますが、次の範囲に収まることがほとんどです。戸籍の束は、法定相続情報一覧図の写しで代替できる会社が多いため、複数の金融機関を回るなら先に一覧図を作っておくと大幅に楽になります。
証券口座の相続手続きで求められることが多い書類
| 書類 | 補足 |
|---|---|
| 証券会社所定の相続手続依頼書 | 相続人全員の署名と実印が必要なことが多い |
| 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式 | 法定相続情報一覧図の写しで代替できる場合が多い |
| 相続人全員の戸籍謄本 | 同上 |
| 相続人全員の印鑑証明書 | 発行後の有効期限を設けている会社が多いため要確認 |
| 遺産分割協議書または遺言書 | 分割の方法によって必要な書類が変わる |
| 承継する相続人名義の証券口座 | ない場合は新規開設が必要 |
書式も添付書類の条件も証券会社ごとに違います。必ず、口座のある証券会社の相続専用窓口に確認したうえでそろえてください。
特定口座・一般口座・NISA口座で扱いが変わる
ここが証券口座の相続でいちばん間違えやすいところです。同じ「株を相続した」でも、被相続人がどの口座で保有していたかによって、売却したときの税金の計算がまるで変わります。
特定口座や一般口座で保有していた株式を相続した場合、取得価額は被相続人のものをそのまま引き継ぎます。40年前に買った株なら、その当時の取得価額が引き継がれるため、売却したときの利益が大きくなることがあります。
これに対してNISA口座は相続人が引き継げません。相続が開始した時点でNISA口座から払い出され、相続人の課税口座へ移ります。このとき取得日は相続開始日、取得価額は相続開始日の時価になります。非課税の枠は引き継げないため、亡くなった日以降の配当や売却益には通常どおり課税されます。
被相続人の口座の種類による違い
| 口座の種類 | 移管先 | 売却時の取得価額 |
|---|---|---|
| 特定口座 | 相続人の特定口座(同じ証券会社の場合) | 被相続人の取得価額を引き継ぐ |
| 一般口座 | 相続人の一般口座 | 被相続人の取得価額を引き継ぐ |
| NISA口座 | 相続人の課税口座(特定口座・一般口座) | 相続開始日の時価 |
証券会社が異なる場合、特定口座から特定口座への移管ができないことがあります。取得価額が分からないまま一般口座へ移ると、売却時の計算で不利になる場合があるため、移管前に証券会社へ扱いを確認してください。
どこの証券会社に口座があるか分からないとき
遺品を整理しても取引報告書が見つからず、ネット証券だけを使っていた場合は手掛かりが残らないことがあります。この場合、証券保管振替機構(ほふり)へ「登録済加入者情報の開示請求」を行うと、被相続人がどの証券会社に口座を開設していたかを一覧で知ることができます。
開示されるのは口座の開設先であって、残高や銘柄ではありません。通知書が届いたら、記載された各証券会社へ個別に連絡して残高証明書を請求することになります。受付から結果の送付まで1か月程度かかるため、相続税の申告期限が10か月であることを考えると、早い段階で動いておくと安全です。
請求には手数料がかかります。法定相続情報一覧図の写しを提出すると割引される扱いがあるため、戸籍を集めたら先に一覧図を作っておくと、ここでも費用と手間の両方が減ります。
手数料の額と必要書類は変更されることがあります。請求前に証券保管振替機構のサイトで最新の案内を確認してください。
証券会社に預けていない株が出てきたとき
古い株券や、証券会社からではなく発行会社から届いた通知が出てくることがあります。2009年1月の株券電子化のときに証券保管振替機構へ預託されていなかった株式は、発行会社の手配で信託銀行等に「特別口座」が開設され、そこで管理されています。
特別口座は取引用の口座ではないため、売却はできません。相続手続きは、特別口座が開設されている信託銀行等(多くは発行会社の株主名簿管理人)で行います。売却したい場合は、そのあと証券会社の自分名義の口座へ振り替える必要があります。
手掛かりは、発行会社や信託銀行から届く配当金計算書、株主総会の招集通知、単元未満株の買取案内などです。証券会社の残高証明書には出てこないため、郵便物を捨てずに確認してください。
上場株式の相続税評価は、4つのうち最も低い額
相続税の計算では、上場株式は課税時期(被相続人が亡くなった日)の終値で評価するのが原則です。ただし、株価は短期間で大きく動くため、次の4つのうち最も低い金額で評価してよいことになっています。
亡くなった日が土日祝日など取引のない日にあたる場合は、最も近い日の終値を使います。前後が同じ日数で近い場合の扱いなど例外もあるため、金額が大きい場合は税理士に確認してください。
上場株式の相続税評価に使える4つの価額
| 基準 | 内容 |
|---|---|
| 課税時期の終値 | 被相続人が亡くなった日の最終価格 |
| 当月の月平均額 | 亡くなった日が属する月の毎日の終値の平均額 |
| 前月の月平均額 | その前月の毎日の終値の平均額 |
| 前々月の月平均額 | その前々月の毎日の終値の平均額 |
この4つのうち最も低い金額を選べます。投資信託や非上場株式は評価方法が異なります。財産の総額が基礎控除を超えるかどうかの判断も含め、正確な金額は税理士に確認してください。
亡くなった年の売却益・配当と、準確定申告
被相続人が亡くなった年に株式の売却益や配当があり、確定申告が必要な内容だった場合は、相続人が代わりに申告します。これを準確定申告といい、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内が期限です。相続税の10か月より先に来るため、見落としやすい期限です。
相続した株式を売却する場合、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売れば、支払った相続税の一部を取得費に加算できる特例があります。適用には条件があるため、売却の時期を決める前に税理士へ相談してください。
よくある質問
Q証券口座は死亡すると凍結されますか?開く閉じる
死亡の連絡を受けた時点で取引が停止されます。ただし預貯金と違い、現金で払い戻すのではなく、株式や投資信託を現物のまま相続人名義の口座へ移すのが原則です。
Q相続人がその証券会社に口座を持っていない場合はどうなりますか?開く閉じる
新たに口座を開設する必要があります。口座開設だけで日数がかかるため、相続手続きの書類をそろえる前に、口座の有無を確認して先に手配しておくと止まりません。
QNISA口座はそのまま引き継げますか?開く閉じる
引き継げません。相続開始時にNISA口座から払い出され、相続人の特定口座または一般口座へ移ります。取得価額は相続開始日の時価となり、亡くなった日以降の配当や売却益には課税されます。
Q相続した株式を売ったときの取得価額はいくらになりますか?開く閉じる
特定口座・一般口座で保有していた株式は、被相続人の取得価額を引き継ぎます。NISA口座で保有していた株式は相続開始日の時価が取得価額になります。取得価額が不明な場合の扱いは証券会社と税理士に確認してください。
Qどこの証券会社に口座があるか分かりません。開く閉じる
証券保管振替機構(ほふり)へ登録済加入者情報の開示請求をすると、口座の開設先が分かります。残高や銘柄は開示されないため、判明した証券会社へ個別に残高証明書を請求します。結果が届くまで1か月程度かかります。
Q古い株券が出てきました。どこで手続きしますか?開く閉じる
株券電子化のときに預託されていなかった株式は、信託銀行等に開設された特別口座で管理されています。相続手続きはその信託銀行等で行い、売却したい場合は証券会社の自分名義の口座へ振り替える必要があります。
Q手続きにはどれくらい時間がかかりますか?開く閉じる
書類の提出から移管完了まで2週間から1か月程度が目安です。これに戸籍の収集、遺産分割協議、口座開設の時間が加わります。相続税の申告が必要な場合は10か月の期限から逆算して動いてください。
Q相続税の申告は必要ですか?開く閉じる
株式や投資信託も含めた財産の総額が基礎控除を超えるかどうかで決まります。預貯金だけでは基礎控除内に見えても、株式を加えると超えることがあります。判断に迷う場合は税理士に確認してください。